閣議等の議事録作成もインカメラ審理も特定秘密保護法案の免罪符にはならない

 与党が特定秘密保護法案を基本的に了承したことを受けて、ある種、法案を成立させるための政治的環境整備とも思われるニュースが流れるようになりました。

 まずは、以下の記事。

 「自民、「知る権利」明記なく了承 特定秘密法案」(10/9 共同通信)
 http://www.47news.jp/CN/201310/CN2013100901001948.html

 そして、「知る権利の明記」をお土産にして公明党の了承を得るという流れ。

 「「知る権利」「報道の自由」明記 公明了承、来週提出へ 特定秘密保護法案」(10/18 産経新聞)
 http://sankei.jp.msn.com/politics/news/131018/stt13101811080003-n1.htm

 さらには、情報公開法改正法案を民主党が提出するという記事の中に、なぜか「特定秘密についても非公開を争う訴訟でインカメラ審理を行いチェックをする」という記事。

 「情報公開法改正案提出へ=「特定秘密」司法がチェック-民主」(10/17 時事通信)
 http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2013101600679

 そしてさらに、閣議等の議事録作成を特定秘密保護とセットでとなぜかこの二つをセットと説明する首相。

 「首相、閣議の議事録作成を明言 特定秘密保護とセット」(10/18 共同通信)
 http://www.47news.jp/CN/201310/CN2013101801001141.html

 特定秘密保護法案と情報公開法改正、閣議の議事録作成は全く関係ないとは言えませんが、基本的には情報公開法改正と閣議議事録を作成したら特定秘密保護法案を通す環境が整うというような類の問題ではないです。情報公開法を改正してインカメラ審理で特定秘密も審理・・・、という話は特にひどい。おそらく、民主党政権時代の情報公開法改正法案を読んだことがない人が、方針を話したとしか思えないです。

 確かに、2011年4月に国会に提出された情報公開法改正法案には、訴訟におけるインカメラ審理についての規定が入っていました。非公開決定に対して、不服申し立てを審査する「情報公開・個人情報保護審査会」は非公開文書を審査会だけが見て審議を行う「インカメラ審査」を行っています。しかし、非公開を争う訴訟になったときは、裁判所が非公開文書を実際に見て審理を行う「インカメラ審理」が行われていません。最高裁が情報公開法に規定がないのでできないと以前に判断したので、情報公開法改正で入れようということになったわけです。

 それで実際に行政透明化検討チームというところで情報公開法改正について検討が行われて、その結果できた改正法案では訴訟におけるインカメラ審理の規定が設けられたわけです。これは画期的なことで、今の日本の裁判の仕組みではインカメラ審理と称するものは、文書提出命令の拒否の妥当性を裁判所が判断する際に裁判所だけが文書を見るという仕組みとしてあるだけで、証拠調べとしてのインカメラ審理はないからです。

 ただ、この訴訟におけるインカメラ審理には例外が設けられています。改正情報公開法案の規定は以下のようになっています。
(口頭弁論の期日外における行政文書の証拠調べ)
第24条 情報公開訴訟においては、裁判所は、事案の内容、審理の状況、前条に規定する資料の提出の有無、当該資料の記載内容その他の事情を考慮し、特に必要があると認めるときは、申立てにより、当事者の同意を得て、口頭弁論の期日外において、当事者を立ち会わせないで、当該情報公開訴訟に係る行政文書を目的とする文書(民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第二百三十一条に規定する物件を含む。)の証拠調べ又は検証(以下この条において「弁論期日外証拠調べ」という。)をすることができる。
2 前項の申立てがあったときは、被告は、当該行政文書を裁判所に提出し、又は提示することにより、国の防衛若しくは外交上の利益又は公共の安全と秩序の維持に重大な支障を及ぼす場合その他の国の重大な利益を害する場合を除き、同項の同意を拒むことができないものとする。

 下線の部分がポイントです。要は、「国の防衛若しくは外交上の利益又は公共の安全と秩序の維持に重大な支障を及ぼす場合その他の国の重大な利益を害する場合」については、国はインカメラ審理を拒否することができる、ということになっているのです。特定秘密保護法案で特定秘密とされるのは、以下のようなもの。
(特定秘密の指定)
第3条 行政機関の長は、当該行政機関の所掌事務に係る別表に掲げる事項に関する情報であって、公になっていないもののうち、その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるものを特定秘密として指定するものとする。

 情報公開法改正法案でインカメラを拒否する場合は「重大な支障」「重大な利害を害する」で、特定秘密は「著しい支障」となっているわけです。

 この「重大」と「著しい」がどう違うのかと言えば、「過失」の要件では「重大」>「著しい」で「重大」の方が要件が重い、ということのようです。そうすると、廃案になった情報公開法改正法案でインカメラを拒否できる場合は、特定秘密保護法案の領域よりも少し狭いということは言えるのかもしれません。

 でも、情報公開訴訟におけるインカメラ審理は、特定秘密とされる外交・防衛・治安維持分野を中心に拒否できる規定になっていることに違いはありません。情報公開・個人情報保護審査会ではこうした拒否ができないのと対照的です。行政透明化検討チームで外務省、防衛省、警察庁を呼んでヒアリングを行った際、検討チームのメンバーだった私は、それぞれに審査会でインカメラしているんだから裁判でもいいんじゃないの~というような質問をしてみましたが、審査会は事務局が各省庁からの出向者が占め、審査会も行政内部の組織なので抵抗はないけど、裁判所はよそ様でさらには守秘義務が怪しいから大事なものは出したくない、というような趣旨のことを各省庁言っておられたのであります。

 こういう経過をへて、結局は外交・防衛・治安維持分野についてのインカメラ審理拒否可能規定が入ったわけで、それにも関わらず
「行政機関による公文書の非開示決定の是非を裁判所がチェックできる仕組みを盛り込んだ情報公開法改正案を今国会に提出する方針を決めた。今国会の焦点の一つの特定秘密保護法案によって政府が指定する「特定秘密」の妥当性についても、チェック対象とする。」

というようなことが民主党の部門会議で決まったというのは何ともはや・・・。民主党政権下での改正情報公開法案でも、特定秘密に該当するものはインカメラ拒否ができますから!と誰か教えてあげてください。本当に。おそらく、特定秘密保護法案の審議入りをする環境整備なんて感じで安易に何かしたのではないか、と邪推。情報公開法の改正を特定秘密保護法案の前提とするならば、改正内容はもっとダイナミックに変えないと。民主党政権下の改正情報公開法案の内容で行くのであれば、特定秘密保護法案とは別にやらないとおかしな話になってしまうのであります。

 そして別の変化球が、首相の参議院での以下の明言。
「安倍晋三首相は18日午前の参院本会議で、閣議の議事録を作成する方針を明言した。行政文書の適切管理を定める公文書管理法の改正案を国会に提出する。機密を漏らした公務員らへの罰則強化を盛り込んだ特定秘密保護法案の成立に理解を得るため、セットで議事録の作成と保存が必要と判断した。」

 閣議や閣僚会議等の議事録作成についての議論は、東日本大震災・原発事故対応の政府会議の議事録未作成問題に端を発した公文書管理委員会ので検証、議論の中で、政府の重大な意思決定に関する会議の議事録作成についても検討されることになり、「政府の重要な意思決定にかかわる会議に関する議事概要・議事録作成の在り方<論点整理>」が示されました。これを受けて内閣官房にできたのが「閣議議事録等作成・公開検討チーム」。そして「閣議等議事録の作成・公開制度の方向性について」と「閣僚会議等の議事録等の作成・公開について」が取りまとめられたわけです。

 大雑把にいえば、閣議・閣僚会議の議事録はこれまで未作成だったけど作成を法で義務付けるということを提言しています。そして、作成をするには環境整備が必要ということで、公文書管理法を改正して、

①閣議・閣僚懇談会の議事録を作成を義務付ける
②作成から30年間は秘密として保持し情報公開法に基づく公開請求の対象から除外する
③30年後に原則として国立公文書館に移管をして公開をする

という特別ルールを作ることにしましょうということになっていました。一方、「閣僚会議等の議事録作成」については特に法改正をせずに、議事録・議事概要を作成しましょうということで、法的には作成を義務付けないとしました。そして、作成された議事録・議事概要は原則として10年後に国立公文書館等に移管をすることとし、これらはガイドラインの改訂などで対応しようということになっていたわけです。

 ただ、こちらも例外があり、特定秘密保護法案と一緒に審議されるNSC関連法案で強化されるNSCはこの閣僚会議等に含まれますが、NSCような会議体の議事概要などは10年では移管されずに30年とか50年寝かされることが想定されていることが取りまとめを読むと分かります。この「閣僚会議等」のうちで外交・防衛・治安維持に関する分野に関しては、秘密保全法制の検討の動向を踏まえ、「その中でも必要な検討を行い、安全保障のような政府の重要な意思決定に至る過程の記録が作成されるようにすべきである。」と書かれていました。だから、「閣僚会議等」の一部の分野は特定秘密保護法案と直接かかわる問題、ということは言えます。

 しかし、閣議等は別問題。閣議等の議事録が作成されてこなかったのは、「閣僚同士の議論は自由に忌憚なく行われる必要があること、また、内閣の連帯責任の帰結として、対外的な一体性、統一性の確保が要請されていることから、これを作成し公開することは適当でないとされてきた。」という理由で説明されています。でも、公文書管理法の趣旨を踏まえれば閣議や閣僚懇談会の記録がないのは、適当とは言えないので環境整備を公文書管理法でしましょう」という話です。だから、閣議等の議事録作成・公開のために公文書管理法の改正をすることは必要ですが、それをもって特定秘密保護法案を通すための環境整備というものにはならないわけです。

 一部、情報公開法改正法案や公文書管理法の改正による閣議等の議事録作成・公開ルールが先という主張がされています。市民の知る権利の強化、政府のアカウンタビリティ体制の強化は必要なので、これは絶対的に必要です。しかし、あくまでも今の法制の枠組みで情報公開法や公文書管理法を考えるのであれば、これらの改正が特定秘密保護法案の前提条件ではないわけです。むしろ特定秘密保護法案との関係で公文書管理法を改正するならば、特定秘密の管理(ライフサイクル)について、法案は何も書いていないわけですから、体系的な文書管理という観点から、特定秘密のライフサイクルを公文書管理法に規定すればよい、と思うわけです。こういう本質的なところではない部分で、情報公開法の改正や公文書管理法、閣議等の議事録作成・公開のことを表面的に言葉触りのいいものとして言うのは、これもいわば利敵行為的なこと。

 なんだか、木を見て森を見ていないか、森を見て木を見ていないという主張が多い気がします。いずれも、「こうだ」という自分の主観が錯覚的に客観化されたと思うと、視点が固定化されて「森」で固定された人はそれしか見えないし、「木」で固定された人はそれしか見えなくなってしまうという感じなのかと思います。木も、森も、両方見るのが大事です。木も全体の構造の中でとらえることが必要ですし、森も木の多様性をとらえてみることが大切でしょうと思うのですけど。
 
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by clearinghouse | 2013-10-18 23:06