特定秘密と公益通報、情報漏えい

 特定秘密に関する国会の監視機関の設置のため、国会法改正法案などが5月30日に提出されました。衆参両院に情報監視委員会の設置とその権能、特定秘密の提供を政府から受ける場合の条件整備をすることが主たる内容です。全体にわたる課題・問題点については、別に論考が近くweb上で公開されると思うので、そちらに譲り、公益通報、いわゆる内部告発との関係を少し整理してみたいと思います。

 特定秘密保護法の国会審議に当たっては、外部から特定秘密を取得しようとする行為が一定条件のもとで刑事罰の対象となり得ることに対して批判が集中しました。しかし、情報の流通は送り手と受け手の両方がいて初めて成立するもの。特定秘密保護法の問題は、取得者への処罰とともに、内部からの単純・過失の情報漏えいが処罰の対象になるり得ることにあります。政府が情報漏えい体質であることが良いとは言いませんが、不適当・不適法な政府活動が非公開や特定秘密の壁に阻まれて温存されることは問題であり、こうした情報が流通して是正される仕組みが必要なのは言うまでもありません。

 不適当・不適法な政府活動がないことが最も望ましいのは間違いないですが、理想や「頑張ります」という努力だけを語っていても仕方がないところです。だから、いわゆる公益通報(内部告発)によって、問題のある政府活動や公務員の活動に関する情報が、是正させるために必要な場に運ばれることが重要で、その情報を運ぶ人を国外のNGOは「メッセンジャー」と表することがあります。

 特定秘密保護法との関係では、公益通報者保護法により十分対応できる可能な政府答弁や説明がされてきて、個人的にはあまりの浅い考えに頭を抱えたところです。というのも秘密保護の仕組みにおける「情報漏えい」とは何かという理解が、極めて怪しいと思うからです。

 情報漏えいというと、政府の外部に情報を漏らした場合ばかりが想定されていると思います。日本語では情報漏えいと言いますが、個人的には「Unauthorized Disclosure」とした方がしっくりきます。この間、国外とのやりとりが続いていますが、その時も例外なくみな、この言葉を用いています。内閣官房が公開した英語の特定秘密保護法の概要版も「Unauthorized disclosure」という言葉が翻訳として当たっています。

 何が言いたいのかというと、「情報漏えい」とは、ある特定秘密にアクセスする権限のない人に特定秘密そのものを開示する(提供する)、あるは「知得」した内容を話すことそのものも含むものだということです。アクセス権限のない人に、正当なアクセス権限を有した公務員が特定秘密を洩らせば、そのことだけで処罰の対象になり得るということになります。

 実際、2007年に明らかになった「イージスシステム情報漏えい事件」は、この自衛隊内部でのアクセス権限のない自衛官に対する情報漏えいが刑事罰の対象となりました。

 イージスシステム情報漏えい事件は、三等海佐がイージスシステム情報を、その情報の取扱者の指定を受けていない同僚に送付し、そこからさらに4名に転送されています。最後に転送を受けた同僚(2等海曹)の自宅が、妻の出入国管理等違反で家宅捜索がされた際にイージスシステム情報が発見されたのが発覚の経緯です。お分かりいただける通り、この件では、警察が発見をしていますが、海上自衛隊の中を出ていない情報漏えい事件でした。

 刑事罰は、最初に同僚に情報を漏えいした三等海佐が懲役2年6月(執行猶予4年)となり、その後同僚に転送した海上自衛官は書類送検(起訴猶予)で、最後に情報を受けた2等海曹のみ刑事罰には問われていません。

 適用された罰則規定は、MDA秘密保護法(日米相互援助協定等に伴う秘密保護法)のものです。規定は以下のようになっています。
(罰則)
第三条  左の各号の一に該当する者は、十年以下の懲役に処する。
 一  わが国の安全を害すべき用途に供する目的をもつて、又は不当な方法で、特別防衛秘密を探知し、又は収集した者
 二  わが国の安全を害する目的をもつて、特別防衛秘密を他人に漏らした者
 三  特別防衛秘密を取り扱うことを業務とする者で、その業務により知得し、又は領有した特別防衛秘密を他人に漏らしたもの
2  前項第二号又は第三号に該当する者を除き、特別防衛秘密を他人に漏らした者は、五年以下の懲役に処する。
3  前二項の未遂罪は、罰する。

 三等海佐は3条1項3号、それ以外は3条2項が適用されたのではないかと思います。

 このことを踏まえると、次のことが言えます。

 特定秘密については、不適当・不適法な政府活動の秘密指定を禁止していません。さらには、不適法に特定秘密が指定されていた場合についても、通報するシステムを設けていません。国会に同様のことを通報するようなシステムもないわけです。そうすると、特定秘密は、当該特定秘密にアクセスする権限を有する人以外に、その内容も含めて通報すると、条件を整えておかないと、そのことが情報漏えいに該当しうることになります。

 特定秘密の範囲であっても、不適当・不適法な政府活動に関する情報があるときは、それを特定秘密保護法にいう情報漏えいに該当しないように安全に通報できるシステムが法的に保障されていないと、誰が適法に通報を受けられるのか、誰に対する通報であれば安全であるのかがはっきりしないということになります。また、不適当・不適法に秘密指定したり、解除が回避されていた場合は、そのことを安全に誰に通報できるのか、ということが法的に整備されていなければ、問題を是正する機会が失われることになります。繰り返しますが、ここでいう情報漏えいとは、文書そのものの漏えい(権限なき開示)だけでなく、「知得」した情報、つまり職務上知った特定秘密の内容を漏らした場合も罰則の対象になり得るわけです。

 国会の監視機関も同様の問題があります。たとえ、不適当・不適法な政府活動が特定秘密の範囲で行われている、あるいは不適当・不適法な特定秘密の指定・解除の実態があっても、その問題を公務員から通報を受ければ、公務員の方は情報漏えいで処罰の対象になり得る構造になっています。

 公益通報者保護法は、もっぱら刑事罰を伴う違法行為を保護すべき通報範囲としています。そのため、不適法・違法な行為の場合は、一定の条件で特定秘密であっても公益通報者保護法による保護の対象範囲になり得ます。しかし、その場合は、公益通報を受ける部門とその公務員に、特定秘密へのアクセス権限を広く認めておく必要があります。さらに、違法・不適法であることが確定的でなく、通報者がそうであると信じる特定秘密へのアクセスを含める必要があることになります。

 そして、問題は公益通報者保護法の保護の範囲外になる、刑事罰を伴わない違法・不適法行為、不適当な政府活動などは、特に別に公益通報を安全にできる仕組みが必要になります。特定秘密保護法は、秘密指定を不適法に行っていても、解除できるのにしていなくても、刑事罰の対象にはなっておらず、こうした問題は不適法か否かだけでなく、適当か否かも問題になる部分です。こうした情報も含めて通報が安全にできる仕組みはできるのでしょうか。

 今のところ、国会がそうした情報を安全に通報できる仕組みは設けないことは明確になりました。政府ではどうなるのでしょうか。このままいくと、特定秘密であると「情報漏えい」になることを公務員が覚悟をしないと、違法・不適法、不適当な政府活動を内部でも公益通報できないということが起こりそうです。事は、政府という存在の本質にかかわる問題でもあります。どういう仕組みを整備するのかが、政府の本性をあぶりだす。そういうことになると思います。
 
by clearinghouse | 2014-06-07 20:09