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情報公開訴訟で福岡高裁 非公開文書の提示命令

 米軍ヘリが沖縄国際大学に墜落したのは2004年8月のこと。確か同年9月ごろに、外務省に対して、沖縄からその墜落事故に関する情報の公開請求がなされ、関係文書が部分公開されたが、多くの重要な箇所が非公開となり、不服申し立てへ。適用されていた非公開理由は、外交防衛に関する情報であること(情報公開法5条3号)、意思形成過程情報であること(5条5号)、そして個人情報(5条1号)。不服申し立ての結果、ごく一部分(個人情報に関する部分)で公開範囲が拡大されたけど、肝心の部分は公開されず、2005年3月に福岡地裁に提訴したものの敗訴し、現在福岡高裁で係争中の事件がある。

 最初の情報公開請求の段階からかかわっている案件で、訴訟も提訴時点では危ない橋を無理無理わたらせてしまい、何とかあとから人が揃うという、冷汗をかきながら関係方面をたきつけてしまったので、個人的にはいろいろ思い入れのある事件。原告が沖縄在住、代理人も沖縄の弁護士+関東の弁護士、被告は国という当事者で、裁判は福岡地裁→福岡高裁と、いずれからも遠いところで行われるので、実費程度しかカバーはできないものの、情報公開クリアリングハウスのもうけている「情報公開基金」で原告を支援している事件でもある。

 地裁での争いはあまり芳しくなく原告敗訴に終わっているが、この訴訟に限らず、情報公開法の非公開規定のうち、行政側に比較的広く裁量権を認める外交防衛情報(5条3号)、犯罪捜査公共の安全等情報(5条4号)が適用されて情報が非公開となっている案件を、裁判で実質的に争う難しさは、以前から言われているところだ。そもそも裁量権の広い規定が問題であるのだが、同時に裁判所では基本的にインカメラ審理が行われていないため、非公開情報を見て具体的な判断ができる環境にないことも問題であり、これまでも情報公開訴訟でのインカメラ審理の導入は課題になっている。過去には、自治体の情報公開訴訟でインカメラ審理が行われたケースがあるが、極めてまれなケースだ。

 今回の事件では、福岡高裁に対して原告側が非公開文書について検証物提示命令申し立てを行ったところ、なんと、高裁が申し立てを認める決定をしたので、ある意味ちょっとした事件!国を相手にした情報公開訴訟では初めての提示命令ではないだろうか。以前から、代理人から(とはいっても、当会の理事長)裁判所が関心を示しているようだ、という話を聞いてはいたものの、本当にこういう展開になるとは。原告は非常にうれしかったようで、決定書が到達した16日に、すぐに電話がかかってきた。こういうことにかかわっていると、うまくいかないことや思うとおりにいかないことの方が多いけど、それでも時々こんなこともあるので、やめられません。

 検証物提示命令の申し立ては、非公開情報の提示の命令を求めているので、申し立てを行った原告側の立会権を放棄することを前提として行われている。この立会権放棄を前提とする申し立てを裁判所が是認。検証物提示命令以外の有効・適切な代替手段がないかについて検討がされ、申立人がいきなり検証物提示命令をしたのではなく、

①地裁で過去にヴォーンインデックスの方法による審理を行うことを提唱したが採用されるに至らなかった
②高裁で文書の体裁と文書の中身を推測される文言のみを明らかにした書類を国が作成し、裁判所のみに開示することが検討されたが、国が受け入れなかった
③行政事件訴訟法23条の2第1項に基づき、審査会等に対し審査手続に関する資料等の提出を求める旨の釈明処分の申し出がなされたが、国が釈明処分の対象となる文書が存在しない旨報告した

という経緯を経てのものであり、検証物提示によるインカメラ審理以外に有効適切な手段が見当たらないとしている。そして、裁判所としてインカメラ審理が真に必要不可欠であるかが検討され、5条3号を適用した非公開文書については、判断に多分に評価的要素が含まれるので、最終的な判断権者である裁判所が判適正に判断するためには、非公開文書を直接見分するしかないというべきとしている。5条5号を適用した非公開文書についても同様に判断しているが、一方で5条1号(個人情報)を理由とする非公開文書については、その必要はないともしている。それでもって、検証の手続を利用して証拠調べを行うことは可能であり、かつ相当として提示命令をしている。

 とにかく、5条3号を適用した非公開文書のインカメラ審理が今回裁判所で行われれば、かなり画期的。沖縄の地元紙の琉球新報では、5月20日付夕刊の一面トップでこの件をつたえており、いくつかの新聞も琉球新報の記事を受けて後追いをしているので、これからまた記事が出るだろう。琉球新報の記事によると、国は高裁の命令に異議があるとコメントしているので、これからもしかしたら抗告ということもあるかもしれない。ちょっと面白くなってきたかも。

 決定書の全文はこちらから→ 平成20年(行タ)第3号 検証物提示命令申立事件決定

 琉球新報の記事は↓のリンクから。
  国に情報提示命令 沖国大ヘリ墜落情報公開請求(2008年5月20日)
by clearinghouse | 2008-05-21 00:52