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新たな制度のもとでの外交記録の公開

 外務省は、7月7日に新たな外交記録の公開制度のもとで、安保改定や沖縄返還に関する外交記録を公開しました。各紙で公開された記録の内容ともども、報じられていますね。

<外交文書>岸首相、安保交渉で「巻き添えは困る」と懸念 毎日新聞
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100707-00000087-mai-soci

「沖縄返還交渉」及び「日米安全保障条約改定交渉」関係の外交記録公開
 http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/22/7/0706_02.html

 今年の5月に策定された「外交記録公開に関する規則」に基づく初めての公開です。この規則、作成・取得して30年たった行政文書は原則として自動的に公開方針をどう具現化するかが定められているので、規定を見るとなんだかややこしい。

 http://www.mofa.go.jp/mofaj/public/pdfs/kokai_kisoku.pdf

 雑駁にまとめてしまうと、30年たった行政文書で公開されるのは「特定歴史公文書等」。公文書管理法にいう国立公文書館等に移管された文書のことで、外務省の場合は外交史料館に移管された行政文書を指します。で、要は規則に基づき設置された外交記録公開推進委員会が、30年たった行政文書で外交記録公開手続の対象になる行政文書ファイルの優先順位を決定して、まずは移管審査をし、移管を決めたものは公開審査をするということ。委員会は全体の司令塔的な役割で、実際の細かい審査等は大臣官房総務課と当該文書の主管課で行い、その結果が委員会に報告されて確認され、最後は外務大臣の了解を得るという流れ。

 移管審査のとき、例外的に延長する場合を除き移管をしない場合は廃棄ということになるよう。この廃棄の決定のときに廃棄決定前に廃棄対象を公表して、パブリックコメントを設ける仕組みなどがあるべきではないかとは思う。長期の保存文書なんだし、ちょっと待った、という人がいるかもしれないし。

 とはいっても、どういうフローで審査が行われて公開されていくのか、どこがそれをコントロールしていくのかが規則で明らかになり、公開が始まったことは率直に歓迎です。

 問題は、現用文書である間の公開が進むかどうかということ。もうひとつは、外務省がこの間密約問題で露呈してきたのが、組織的に管理されていない重大な記録がありそうだということ。そして、それが何らかの意図で散逸するような内部構造にあるようだということ。前者は、情報公開法の改正議論の中で、外交情報に関する不開示事由の改正に踏み込みそうなので、その中で進んでいくことを期待したいところ。だって、30年たてば公開だからそれまでは不開示でもいいということになるのでは、ちょっと本末転倒な感じになってしまうし。

 後者については、外交記録の公開を進めるとともに、これから公文書管理法が施行される中で、信頼を回復するための対応を地道にしていってもらうしかないかなと思う。けど、ここが本質だと思っています。私自身は歴史家でもないし、外交の専門家でもないので、公開される外交記録は誰かに社会的・歴史的に位置づけてもらわないとわからないことの方が多いだろうと思う。でも、たとえばいわゆる核密約が今の日本の安全保障政策と切っても切り離せないものだったり、いわゆる沖縄返還密約での原状回復費が、今の思いやり予算につながるものであったり、過去の政治的判断が今の自分たちの社会のありようと切り離せないもの。だからこそ、いわゆる「密約」的なものであればそれは必ずどこかで明らかにされなければならないと思う。

 この間のいわゆる密約問題をめぐるいろんな動きを見ていて、「密約があったかどうか」ということと同じくらい、当時の政治判断、政策判断で何を得て何が代償となり、今のことにつながっているのかという冷静な議論と検証、そして歴史を踏まえて今を見、先を展望することが、記録を残し公開することの意味なんだろうと思う。これは、当たり前のことといえばそうなんだけど…

 何はともあれ、これからの外交記録の公開制度の運用は、関心を持ってみていきたいと思います。
 
by clearinghouse | 2010-07-08 00:00