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解読に頭を抱える東京地裁判決

 少し前のことになるが、私が原告の情報公開訴訟の判決が東京地裁であった。3月1日の判決予定が、直前になって3月15日に延期になっていた。すでに親サイトに判決を掲載済みなので、ご関心があれば全文をどうぞ(PDFファイルの最後のページがエラーになっていますが、裁判官名などが書かれたページなので、そのままにしてあります。本文は48ページで、裁判所判断は30ページから始まっています。)。

 東京地裁判決(約41MB)
 
 争っていたのは、法務省に設けられた司法試験委員会の会議内容を録音した録音物など。録音物は個人的に録られたものなので個人メモに当たり、行政文書ではないため「不存在」とされたことが主な争い。他にも、録音物の不自然な時期の消去や、発言者名入り議事録の物理的な不存在なども争っていたけど、今回の争いの主眼はなんと言っても、録音物の行政文書性。で、判決はこちらの全面敗訴。でも、何で全面敗訴になるのかさっぱりわからない判決内容に、地裁で判決言い渡しを一緒に聞いた代理人と判決をまじまじと読んでて、首をかしげてしまったので、ちょっと長いけど内容を紹介しようと思う。

 司法試験委員会の内容の録音物を、個人メモで行政文書ではないとした国(法務省)の主張をまとめると、

(1)会議の内容を録音することは必要不可欠ではなく、議事録を作成する事務取扱者が議事内容を筆記した手控えの補充として必要に応じて録音をしており、録音目的は個人的な便宜のためであること
(2)司法試験委員会の出席者は、事務取扱者がもっぱら自己の職務遂行の弁護のために会議の内容を筆記や録音方法で記録することを黙認しているが、録音物を組織的に用いることについてまで許可ないし承認していないこと
(3)議事録要旨の起案という職務命令には、会議内容を録音することまで含まれておらず、録音するか否かは事務取扱者の裁量判断で、録音状況の質などについて格別の配慮がされていないため、各発言者の発言を正確に集音・録音できているか機械的・技術的に担保されていないこと
(4)議事要旨の決裁に際して、内容の確認等のために録音物による確認を行なっておらず、内容について庁内で意見の違いが生じた場合は、それぞれの手控えを元に確認を行っており、担当者が急病などの緊急事態が生じた場合は、その際個人用メモを使用し得るか否かは、個人間の信頼関係に基づき、担当者が使用を許諾するか否かにより、組織的に用いることはない
(5)録音物は、事務取扱者の自らの判断で消去していること

というもの。この主張も???なところがたくさんあって、そもそも非公開で行なっている司法試験委員会の会議の内容を個人的に録音できるということは信じがたいし、担当者が病気等で議事要旨が作成できなくなったときは、個人的な信頼関係に基づき許諾するというのも、機関としての職務遂行義務を考えると理解できないところ。その他、いろいろと原告としては主張をしたところで、判決は録音物の行政文書性については原告側の主張をほぼ認めたものになっている。まとめると、次のような内容。

(1)非公開で行なわれている会議において、司法試験委員会の許可なく会議の内容を録音することは、同委員会によって禁止されていると解するのが相当であり、同委員会が事務取扱者によって録音することを黙認していたと認められるところ、これは事務取扱者に録音を許可していたことにほかならない。そして、同委員会が録音を許可したのは、議事録又は議事要旨の内容の正確性を期すために、議事内容を録音しておくことの必要性を認め、録音された内容がみだりに他に漏れて会議非公開の趣旨を損なうことのないように録音物の適正な管理を前提として、庶務担当の人事課職員に対し、会議の録音を許可したものと解される。
 この場合の「録音物の適正な管理」については、庁外への持出し等の際の紛失等の危険性を考えると、個人的な管理にすべてを委ねるのではなく、司法試験委員会の庶務担当部署としての人事課が、組織としての適正な管理を行うことが想定され、期待されていると考えるのが自然である。このように考えると、録音物は、現に人事課において組織的な管理が行なわれているいるものであるか、少なくともそのような組織的な管理が行われるべきものとして、司法試験委員会から委ねられているものと解さざるを得ない。

(2)詳細かつ正確な議事要旨を作成することは、録音物に依存することなしにはきわめて困難であるをとわざるを得ない。仮に議事要旨を作成すべき事務取扱者が急病等の差し支えが生じていたならば、当然に他の職員が、録音物を利用して議事要旨の作成を代行していただろうと考えられる。司法試験委員会が録音を許可したのは、議事要旨の正確性を期すためであり、同委員会としても同然に録音物を利用して議事要旨が作成されることを期待しているものと解されるのであるから、録音物の利用が職員間の個人的な信頼関係に依存するようなことでは、司法試験委員会に対し、庶務担当部署として人事課の責任が果たせるものとは到底考えられない。

(3)内部での決裁に際し、関係者間で議事要旨の内容について意見の相違が生じた場合には、録音物を再生して委員等の発言を確認する作業が行われると考えるのが自然である。客観的な資料である録音物が存在するにもかかわらず、それを利用しないというのはきわめて不自然な行動といわざるを得ず、被告の主張をただちに採用することはできない。

(4)以上のような録音物の性質及び取得の状況、これらから推認される録音物の管理及び利用の状況等を総合的に考慮すれば、録音物は、司法試験委員会会議の議事要旨の作成・公開という業務に必要なものとして、同委員会の庶務担当部署である人事課において利用及び保存される電磁的記録であり、情報公開法における行政文書の要件である「組織的に用いる」ものに該当するというべきである。

 録音物が行政文書に該当するという点については、完全に勝っている。争っている行政処分の内容は、「行政文書としては作成・取得しておらず、保有していないため」という不存在決定の処分の取消しを求めているので、「組織的に用いるものに該当するというべきである」という裁判所判断ならば、録音物の不存在決定処分は取消されそうなもの。それなのに、なぜか取消し請求がこの判決で棄却されてしまった。その棄却に至る裁判所の論理がさっぱりわからない。

 判決には続きがあって、録音物の情報公開法5条5号の意思形成過程情報への該当性の判断に入っている。法務省による録音物の不存在決定には、理由付記でなお書きがついていて、仮に存在するとすると、個人情報、意思形成過程情報、事務事業情報に該当して非公開であるとの説明があった。これは理由で処分内容と直接関連性がないのだけれど、この部分への判断をしているのかなあ、と思われる部分。そこでは、裁判所は、録音物が公開されると意思形成過程に支障が生じることを認め、非公開情報該当性を認めており、その結果、以下のように判決をまとめている。

「以上によれば、録音物を不開示とした部分は、これらの文書に記録された情報が情報公開法5条5号の不開示情報に該当することを理由とする点において適法であり、その余について判断するまでもなく、原告の取消請求には理由がない」

 繰り返すが、争っていた処分は録音物が行政文書ではないことを理由とした不存在決定の取消しと、公開の義務付け。録音物が公開できるか否かの判断が必要な公開義務付け請求部分は、不存在決定が取消されないと判断されないことになるものなので、裁判所はまずは不存在決定処分の取消しを判断するはず。それなのに、録音物を組織共用文書であると判断しながら、内容が非公開情報である意思形成過程情報に該当するから、不存在決定の取消し請求を棄却するという意味がわかりません(涙)。行政文書性は、非公開情報が記載されているか否かで、その該当性が左右されるものだとは、今まで知りませんでした(涙)。それとも、理由付記についてくる「仮に存在すると、・・・」という記述は、処分に該当するのでしょうか・・・

 判決を順当に読めば、録音物の不存在決定は取消し、公開義務付け請求は棄却ということになると思うのに、取消請求棄却、義務付け請求却下という結論。本当に、わけがわかりません。誰か、何でこうなるのか教えてください。当然、控訴です。そして、弁護団+αで判決検討会開催決定です(涙)
by clearinghouse | 2007-03-26 21:17